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エッセイ:アドリア海で純朴なスラブ気質に癒される

【裏地中海の珠玉の寄港地】
聞いたことのない港が多いほど、 船旅の感動は大きくなる!

  ここ数年、日本人の寄港地での過ごし方に変化が現れてきた。平凡な名所めぐりとショッピング一辺倒から卒業し、その土地に一歩踏み込んだ短期滞在者の視点で旅を楽しむようになってきた。
 そんな進化する日本人旅行者にしっくりと合うのがアドリア海、とりわけまだ馴染みの薄いスラブ系民族の多い東側沿岸の国々だと思う。

 アドリア海航路の代表的な発着港は何と言ってもベニスだ。高い鐘楼がそびえ立つサンマルコ広場の前を悠々と通航するときの優越感は筆舌に尽くしがたい。ベニス出航でローマやエーゲ海へ抜ける1週間程度の航路に根強い人気があるのもうなずける。

 だが2014年11月以降、状況は一変した。客船が立てる波で歴史的な建造物に傷がつく恐れがあるからということで9.6万トン以上の大型客船はこのジュデッカ運河の通航が禁止となったのだ。でも落胆することはない。それを補って余りある魅力がこのアドリア海にはまだたくさんあるのだから…。

 北から順番に3つの港を紹介していこう。まずは国名に「LOVE」の文字が入っている世界で唯一の国スロベニア(Slovenia)…。客船はコーペルの街に寄港する。車で数十分ほどのところに「リトルベニス」の異名を持つピランという街がある。自由散策に適したコンパクトサイズのこの町で、絶対に試していただきたいのが海の幸だ。海沿いに並んだ洒落たレストランでは新鮮で素朴な味付けのシーフードが驚くほど安価で味わえる。冷えた地ワインとともに味わっていただきたい。
 
 次にアドリア海の東側沿岸の大半を占めているクロアチアだ。ザダル、スプリット、フバルなど、ダルメシアンコーストには美しい港が点在しているが、やはり横綱級は旧市街全体が世界遺産となっているドブロブニクだろう。アップダウンが続くので少々キツいが、体力が許すならぜひ1.5kmの城壁一周コースに挑戦して欲しい。高い壁の内と外の両側には、歴史と文化と生活感が混じり合ったじつに様々な町の表情に出合える。
 
 アドリア海のしめくくりはモンテネグロのコトルだ。切り立ったフィヨルドの突き当たりにあるこの町までの30km/1時間の風景は、そこが地中海の一部であることを完全に忘れさせる。港のすぐ正面にある市場には、海と山の新鮮な食材が溢れている。摘みたてのラズベリーやチーズ、生ハムなど勧められるがままに試食をしながらのそぞろ歩きも楽しい。旧市街の中心、ルカ広場の裏手から町を見下ろす高台のポイントに上がると、赤茶色に統一された町とフィヨルドが一望できる。ほどよく汗をかいて広場に戻ると、カフェでは冷えた地ビールが待っている。

 市場やカフェ、レストランなど、アドリア海の寄港地はどこへ行ってもすこぶる居心地がいい。それが元来スラブ民族の気質なのか、出会うだれもが自然な間合いで穏やか、かつにこやかに接してくれるのだ。ラテン系にありがちな押しの強さや商売っ気はなく、まるで一期一会を楽しんでいるかのようだ。やや翳りのある「裏地中海」とも言えるアドリア海で体験するスラブ系民族の「さりげない奥深さ」は日本人を虜にすること間違いない。